おおらかな「山の道づくり」に惹かれ、この世界へ
最初から道づくりに興味があったわけではないんです。それまでは駅のホームの改修工事なんかをやっていました。田邊由喜男(※)さんに出会って、はじめて道づくりのことを知りました。田邊さんに、一緒に違う現場にいかないか?と誘われて、全国で開催する「四万十方式」の講習に同行して、1年くらいアシスタントをしていました。ここで道づくりの技術も磨かれたと思います。
建設の仕事は、全てが緻密に設計、測量、計画されているけど、林業の仕事はおおらかです。重機で土を掘るにしても、建設なら水道管や電気の線を気にしないといけないけど、山に入ると何の関係もありません。自由に自分の創意工夫で道が作っていけるのが面白い。自分のプランと技量のみが頼りです。
実は、道づくりをちょっとなめていたところがありました。最初は田邊さんの仕事を見ても、どこがすごいのかわからなくて、これなら楽勝だと思っていたのですが、やってみるとものすごく難しかった。
田邊さんの技術は本当にすごいです。そして、言葉が独特。単純に「ここに2メートル土を盛ったら上がれるよ」という言い方をしない。「空中に道を創る」みたいな、ユニークな言葉が印象的で、62歳の今も現役バリバリです。面白い世界だなと思いました。
(※)当社が採用している「四万十方式」という路網整備方法の考案者。道づくりのエキスパートでもある。
毎回違う現場に、臨機応変に対応
最初は自分の頭の中に、道の全体像を描きます。単純に道をつけるだけならそんなに難しくないかもしれませんが、どこにどう道をつけたら、最短距離で材が出せるかを絶えず考えています。道のつけ方次第で、作業プランも仕事の効率もすごく変わりますから。
自分の技量で現場の流れがコロッと変わるのが難しくて、面白いところです。地形もあるし、土の動かし方(堀った土をどこへ移動するか)も毎回全然違う。限られた面積のなかの限られた長さの道で、いかに集材効率を上げるかを考えています。
雨や風で壊れにくい道づくりも大切です。いちばん道を壊してしまうのは雨なので、排水のことはいつも頭にあります。例えば、水は線で流すと筋ができて土が食われてしまうので、分散して流すことを考えたり、スイッチバックして水を切ったり、いろんな工夫をしています。いつも現場ごとに、相応しいやり方を考えています。
それでも、想定外なことはしょっちゅうおこります。確かに過酷な仕事です。まずは自分の安全を守ることですね。林業は読めないところが多いからこそ安全が第一。自分の腕を過信しないことが大事です。
山の目利きになりたいです。例えば、土質を見極める経験値。「この土が出てきたら方向を変える」とか、とにかく無理をしないこと。無理をしないギリギリを狙って、経験値で「どこまで持つかな」と見極められるようになりたいと思います。
「道づくり」の行き先はひとつじゃない
「城跡のある山の上まで、どうにか道をつけてほしい」という仕事をしたことがあります。よそではどこでも無理だと断られたという仕事です。森林作業なら、危ないとなれば途中で止めることもできるけれど、絶対途中で止められない。「ここまで必ず道をつける」という最高の目標が最低ラインだという難しい仕事でした。だから、山の上までたどり着いた時にはほんとうにうれしかったです。
林業だけでなく、道づくりにはたくさんの展開がひらけています。だからこそ、ひとつずつの仕事を雑にしないで、丁寧な道づくりをしていきたいと思います。