志賀郷杜栄社のしごと5

「山に道をつけること」が、全ての始まり

木枝:
私は長らく、志賀郷和会の会長を務めてきました。先輩方が長年大切に築いて育てた山は、現在約200ha。これだけの山の管理をしようと思うと、やはり道がないと間伐、伐採は苦しい仕事になります。ちょっと山に入ろうと思っても、道がなければ急な斜面を登り降りしなくてはなりません。先輩方が「山に良材」の合言葉で、どんなに良い木を作っても、伐採してお金にするのに経費がかかる。山の価値、木の価値が下がっている状態が何十年も続いている中で、切り捨て間伐等で木を放置して腐らすのを何とかしたいと…そのためにはまず道をつけることが先決と考え、あちらこちらと視察して試験的に外部の業者に道を作らせましたが、これはもう、一度作ったらおしまい。すぐ壊れてしまうし、壊れても修復もしない。こんな使い捨てのような道ばかり見ていたので、もっと良い業者がいないかと考えていました。

ある時、協栄建設さんが個人所有の山に四万十方式という方法で作った作業道を見て、「これだ!」と思いました。さっそく試しに郷和会の山にもこの道をつけてほしいとお願いしたのが始まりです。

最初200メートルくらい道を作ってもらい、1年間様子をみました。ところが1年間雨風にさらされても全く壊れませんでした。ちょうど国もこうした森林整備事業に補助をつける制度ができ、国の補助金で地域の負担は一切なしでできることになりました。反発もありましたが、私は「山をよくするには、道がないとだめだ」という強い信念でどのような批判も跳ね返して、5年間やりぬきました。

山を良い状態に保ち、良い木を育てるためには、まず間伐という作業が欠かせません。間伐とは、木が成長して混みあってきたら、適切に木を間引くこと。間伐は山にとっても、森にとっても、とても大切な作業です。

人が入らないまま森を放置すると、木の枝が張って山が暗くなります。そうすると木の根元に日が当たらないので、木は大きくならない。ところが、人が入って手入れをし、間伐すると日光が入り、木が大きくなりますから、ある程度時間が経つと木材として切り出せる。このために道をつけました。道がつくと木も運び出しやすくなり、その結果山は元気になります。5年も経つと、木も見てわかるほど大きくなります。

道ができて光が射し込むようになった森

今西:
間伐にも定性間伐(木々の形質に重点を置き、どの木を伐るかを見極めてから行う間伐の方法)や列状間伐(斜面の上下に沿って、筋状に間伐する方法)など、いろいろな方法がありますが、木枝さんが大切にしているきちんとした森林整備のためには、定性間伐でなくてはいけません。もっというと、木を育て、成長を見定めながらの「保育間伐」が必要です。

列状間伐や皆伐(対象となる森林の区画にある樹木を全て伐ること)なら、基本的に一度人が山に入ったらそれっきりですから、使い捨ての道でもよいわけです。しかし定性間伐であれば、5年後10年後にまた山に入りますから、その時にも使える、高密度のきちんとした道がどうしても必要なのです。

ドローン空撮

公共事業で培ったノウハウはすべて、林業で活かせる

今西:
志賀郷杜栄社はもともと、土木工事業をメインとする京都の協栄建設株式会社という企業から生まれました。平成22年ごろ、協栄建設は田邊由喜男さん考案の森林作業道に出会ったことをきっかけに、建設業から林業への参入を目指して、田邊式森林作業道づくりの技術を導入しました。その後、その技術を持ったオペレーターを育成することができ、森林整備を新しい事業として展開しはじめたのです。

この道づくりの創始者である田邊さんにお会いして、初めて山を見に行った時に、「これは土木の仕事と同じだ!土木技術はきっと林業で重宝される」と感じたことが事の始まりです。長年、公共事業を行っている協栄建設で培ってきた建設業の技術のノウハウが、林業の分野でも大いに活用できることが大きな魅力でした。それだけでなく、建設業で行っていた業務管理体制やマネジメントの方法も、林業の世界でたいへん有効に活用できると感じ、林業の世界に進出していったのです。全て、協栄建設のノウハウがあってこそできた仕事です。

実際の道づくりに関しては、ここ綾部市の志賀郷地区で、地区の共有林にこの田邊式で道をつけた際に、志賀郷和会(※志賀郷地域の共有林を管理する団体)の代表を務めていた木枝さん(現取締役)と知り合い、高密度で道を整備したのが最初でした。

田邊由喜男氏によるデモ

木枝:
従来の使い捨ての道では、間伐してもその木を出せませんでした。倒してそのまま捨ててしまう、いわば「切り捨て間伐」。木には捨てるところなんてありません。表皮、おがくずに至るまで全て使えます。使える木を捨ててしまうのが本当に嫌で、何とかして切った木を出して使いたいという思いを持っていました。

私は郷和会の会長を10年ほど務め、協栄建設さんにはその間に延べ40キロにもなる森林作業道をつけてもらいました。その結果、どこからでも山に入りやすくなったし、軽トラも入れるようになりました。道がついたおかげで、手間のかからない行き届いた定性間伐ができるようになりました。あるいは昔のように、山を皆伐しても木を全てフォワーダーで運べます。その後に植林するにしても、それまで全て苗を背負って急な山を登らなくてはならなかったのが、道がついたおかげで尾根まで軽トラで運べるようになりました。高性能林業機械を使えるようになり、伐った木を大量に山から出せるようになりました。志賀郷杜栄さんがつけた道は崩れませんし、何かあれば補修もしてくれる。間伐した場所の木は確実に大きくなっています。

私はずっと、郷和会の山を皆が入りやすい山にしたいと思っていました。食べられる植物やキノコ、山菜など、いろいろな山の恵みをみんなが取りに行ける山にしたいと。そして、道がついて山は変わりました。一般の人でも普段着で歩いて入れるような山になってきました。

城山作業道

もう一度、山への意識を取り戻し、産業として成立させたい。

木枝:
2020年から、後期の整備に入ってもらいます。間伐が主ですが、その傍らでいろんな山菜を育てたり、山にキノコの菌をおいて、シイタケやしめじ、えのきだけ、などが生える、「キノコロード」を作ったりと、入山料をいただいて観光ができるような山にしたいとも思っています。利益は地域に還元して、山についた道を活用した観光資源のひとつにできればいいですね。

作業道沿いに「えのき」を栽培する試み

今西:
いろんな人が普通に山に入れるようになった、これは大きいことです。ですが残念ながら、この素晴らしい「宝の山」を、多くの人が宝だと思っていないのが実情です。

(協栄建設で)我々がやっていた建設業は、元来とても公共性の高い仕事です。橋が架かって交通が便利になったり、水道事業でトイレが水洗になったりと、地域の人が喜んでくれる仕事でした。ですから、こうやって山を大切にされているところに、我々の技術を駆使できて役に立てることが大きな喜びになっています。山の値打ちを知って大切にしている人に出会い、喜んでもらえることが目からウロコでした。日進月歩で会社にするぞ!という気が高まり、志賀郷杜栄が生まれたのです。

木枝さんは、山を中心にした地域の町おこしまで考えておられます。そうなると収益、利益が必要になってくる。これを建設業のマネジメント力を使って展開したいと思っています。その主たるものが、「林業の6次産業化(従来の1次産業としての林業と、2次産業としての製造業、3次産業としての小売業等の事業との総合的で一体的な推進を図ること)です。志賀郷杜栄で言えば、山で木を育て、製材して木材として加工し、販売することまでにあたります。これで収益の出る林業を構築していこうと考え、今に至っています。

製材加工場

収益性を出すにしても、持続可能な産業にしていくためには経済力が必須です。経済力をアップするためにも林業というのは6次化を目指しながら、そこから生まれた利益を原資としてやっていくほうが地域にも還元できます。また地域にIターンを導きたい。古民家に住みたいという需要が高まっている今、リフォームのための材料を安価に提供することを考えています。価格を抑えられる分、住みたい人が自分たちもDIYでやるとか、そんなこともできるようになればいいと思っています。

製材といっても、もとは林業です。皆さん、現在はホームセンターで材料を買っていらっしゃいますが、元の木はどこにあるか知らないんですね。実際に山から木を下して自分の家に使うと、「この木は山に、森にあるんだ」ということがわかる。そうすれば皆の意識が山に向くんです。ぜひ、山に行ってほしい。山に意識が動きはじまると、必然的に森林整備が進みます。木の地産地消ができるようになるんですね。どうやって山に意識を持っていってもらうか。そのための動きはまず、地域の人に材を使ってもらうこと。そう思ってここに製材加工場を作りました。

製材加工場

林業は環境事業。何十年の単位で育てていきます

木枝:
われわれ山を大切にする人間にとって、関心がない人が多いのは悲しいことです。昔は自分のところの山を育て、木を育てて切ってきて、製材して小屋を建てたりしていましたが、今では製材するところがないのでそれもできず、山へ行こうという気にもならなくなってしまいました。

個人の山がもっとよくなるように考えないといけません。そういう施策を講じないと、山を誰も見向きもしなくなってしまいます。自分の山に入ろうとしても山が荒れてしまって入れないんです。これをなんとかしないと、木も育たないし災害も起きる。そういうことを、公も考えてほしいと繰り返し伝えていますが、なかなか実現できていません。もっと山に人が入れるようにすれば、木は全て資源として使えるし、また次の資源として木を育てるという繰り返しが絶対に必要です。でないと、山は荒れっぱなしで放置されておわってしまいます。

地元の小学生を対象とした環境学習

今西:
まずは山にもう一度目を向けてもらうことが大きな目標になっているんです。そうやって山に目を向けてもらうことで、木枝さんのように、山に知識のある人が少しでも増えてほしい。みんな興味がなくなるから山が放置されてしまうんです。企業として、この問題に取り組みたいと思っています。これが本来の森林整備なんですから。

木枝:
農業は1年ごとで成長や収穫がわかるけれど、林業は何十年単位ですからね。山は何十年のサイクルで動かさなくてはいけません。大きい目標ですが、年数を積み重ねることで、必ず実現できるはずです。

今西:
林業は自然環境に関する業態。環境問題は、今後の世界で避けて通れません。林業こそ、今やっておかなければという産業となっているんです。事業化するにはとてもやりがいがある仕事です。ポッとでてポッと消える事業ではない。何十年単位で育て、次世代、次々世代に継承できる事業だと思っています。